夜中にベッドに入った直後、急に歯がズキズキと痛み始めた——そんな経験をお持ちの方は少なくないはずです。昼間は何ともなかったのに、なぜ夜になると痛みが増すのか。市販薬は飲んでいいのか。翌朝、歯科を受診すべきかどうか判断できない。こうした不安を、この記事では歯科医師の視点から丁寧に整理します。
夜間の歯痛のほとんどは、翌朝の歯科受診で対応できるレベルです。しかし一部の症状は、夜間のうちに医療機関を受診すべきサインを示している場合があります。まず「原因を知ること」「やっていいこと・いけないことを区別すること」「受診の緊急度を判断すること」——この3つを正確に理解しておきましょう。
夜中に突然歯が痛くなる——その主な原因を歯科医師が整理します
なぜ夜間に痛みが強くなるのか:自律神経と血流の関係
夜になると歯が痛くなる背景には、体の生理的な変化が深く関わっています。
日中は交感神経が優位で血管が収縮しているため、炎症があっても痛みを比較的感じにくい状態です。一方、夜間に入眠しようとリラックスすると、副交感神経が優位になります。副交感神経の働きにより血管が膨らみ、血流が増えることで歯の神経にいく血流が増え、神経を圧迫し歯の痛みを感じやすくなります。さらに横になる姿勢も影響します。寝ているときに痛みが増すのは、横になったために頭部にまで血液が流れやすくなったことが原因の一つだと考えられます。口周りの血管にもしっかりと血液が流れるようになった結果、血管が拡張し、神経が圧迫されて痛みが出やすくなるのです。
要するに、歯に炎症がある状態で夜間を迎えると、「副交感神経優位による血管拡張」と「臥位による頭部への血流増加」という2つの要因が重なり、昼間は何ともなかった歯痛が急に強くなるのです。
夜間の歯痛を引き起こす主な原因4つ
夜間の急な歯痛の背景には、いくつかの代表的な原因が考えられます。
① 歯髄炎(しずいえん)
虫歯が進行して歯の神経(歯髄)にまで細菌が達した状態です。歯髄には豊富な神経と血管が走っており、炎症が生じると拍動性(心臓の鼓動と連動するズキズキ感)の強い痛みが生じます。厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」によると、4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は全体の47.9%にのぼります。また成人層では虫歯の有病率も依然高く[1]、歯髄炎は夜間歯痛の原因として最も頻度が高い状態のひとつと考えられています。
② 根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)
歯髄炎が進行し、神経が壊死した後に歯根の先端(根尖)に膿がたまった状態です。神経自体はすでに機能を失っているため「歯の痛み」の感覚は変化しますが、根の周囲の骨や歯周組織の神経が圧迫されて強い痛みが生じます。骨の中で圧力が高まっている状態のため、市販の鎮痛薬が効きにくいケースが少なくありません。
③ 歯周病の急性増悪・親知らずの炎症
歯周病(歯肉炎・歯周炎)や萌出途中の親知らず周囲の炎症(歯冠周囲炎)も、夜間に強い痛みを生じることがあります。厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」によると、4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は全体で47.9%で、高齢になるにつれ増加傾向にあります。歯周病は慢性的に進行するため自覚症状が乏しいことが多いですが、ストレスや疲労・免疫低下のタイミングで急性化し、夜間に突然の痛みをもたらすことがあります[2]。
④ 非歯原性歯痛——歯以外が原因の場合も
「歯が痛い」と感じていても、実は歯そのものが原因でないケースもあります。日本歯科医師会テーマパーク8020によると、非歯原性歯痛は8つに分類されており、筋・筋膜性歯痛、神経障害性歯痛、神経血管性歯痛、上顎洞性歯痛、心臓性歯痛、精神疾患または心理社会的要因による歯痛、特発性歯痛などが含まれます。
特に注意が必要なのは心臓性歯痛です。狭心症や心筋梗塞などの疾患に関連した歯痛が数多く報告されており、痛みは発作性に生じ、特に運動(歩行など)により歯痛が生じるといった運動との相関関係が認められます。これらは迅速に心疾患の治療を行う必要があります。「歯の痛み」だと思い込んで歯科受診だけを続け、心疾患の診断が遅れるケースが報告されています。夜中に急に歯が痛み始めた場合、既往に心臓疾患がある方は特に注意が必要です。
当院での初診時の確認について
東京日本橋クレア歯科・矯正歯科では、夜間の歯痛を翌朝ご相談いただいた際、野田奈菜院長が「いつから痛むか」「痛みの性質(ズキズキ型か鈍痛型か)」「冷たいもの・熱いものでの変化」などをていねいにお聞きします。また歯科用CTと口腔内スキャナーを導入しており、撮影した画像やスキャンデータを大型モニターで患者さまと一緒に確認しながら、原因の特定と治療方針の説明を行っています。「どこが痛いのかよくわからない」という状態のまま受診されても、できる限り丁寧に対応いたします。
今夜できるセルフケア5選——やってはいけないNG行動も必ず確認を
夜間に試せる5つの対処法
歯科医院が開いていない夜間に突然の歯痛が起きたとき、翌朝の受診までの時間をしのぐための対処法があります。以下はあくまで応急処置であり、根本治療ではありません。翌朝には必ず歯科を受診してください。
① 頬の外側を冷やす
患部を頬の外側からタオルに包んだ氷嚢や冷却シートで冷やすと、血管が収縮して神経への圧力が減り、痛みが和らぐことがあります。冷やす際は15分程度を目安とし、直接肌に当てすぎないよう注意してください。
② 口の中を清潔にする
食べかすや細菌が患部を刺激している場合、ぬるめの生理食塩水(水500mlに塩小さじ1)や真水でのうがいが有効なことがあります。強くゆすぐと逆効果になるため、やさしく行いましょう。
③ 痛む歯に刺激を与えない
噛み合わせるたびに痛む場合は、痛みがひどくなるおそれがありますので、できるだけかみ合わせず、痛い歯を使わないようにして、はやめに歯科医院で治療を受けてください。食事は患部と反対側で、やわらかいものを選びましょう。
④ 市販の鎮痛薬を正しく服用する(詳細は次のセクションで)
消炎鎮痛薬は歯科では最もよく利用されている医薬品の一つです。この消炎鎮痛薬は痛みを弱くする作用がありますが、飲めば全く痛みがなくなるということではありません。量を飲みすぎると副作用が増加してくる薬剤です。歯科医師、薬剤師の指示をしっかりと守って飲み、むやみに多く飲まないことが大切です。
⑤ 上半身をやや高くして横になる
完全に平らに横になると頭部への血流がさらに増加します。枕を高めにするか、リクライニングチェアなど上半身を30〜45度程度起こした姿勢で休むと、血流変化による痛みの増強を軽減できる場合があります。
絶対にやってはいけないNG行動
正しい対処と同じくらい重要なのが、「してはいけないこと」の把握です。
入浴(湯船)は避ける
全身の血行が促進されると、炎症のある歯の神経への血流も増加し、痛みが強くなりやすくなります。夜間に歯が痛い場合、シャワーを使う場合もぬるめにとどめ、湯船への入浴は避けましょう。
飲酒は厳禁
アルコールも血管を拡張させる作用があり、痛みを増強させるリスクがあります。また市販の鎮痛薬との併用は副作用を引き起こす可能性があるため、確実に避けてください。
患部を強く圧迫・触る
「気になって触ってしまう」という行動は、細菌を患部に押し込んだり炎症を悪化させたりするリスクがあります。
温める・ホットタオルを当てる
冷やすことは有効な場合がありますが、温めると血流が増えて痛みが増すことがあります。
急いで救急・夜間外来を受診すべき危険なサイン
多くの夜間歯痛は翌朝の歯科受診で対応できますが、以下に該当する場合は夜間のうちに救急外来または救急相談窓口(#7119)への連絡を検討してください。
顔や顎が大きく腫れている場合は感染が骨の周囲まで広がっている可能性があります(蜂窩織炎などの重篤な感染症のリスク)。口が開けにくい・飲み込みにくい場合は炎症が喉周辺にまで広がっているおそれがあります。発熱を伴っている場合は全身に感染が波及している可能性があります。市販の鎮痛剤を限度量飲んでも全く効かない場合は炎症の程度が市販薬で対応できる範囲を超えています。呼吸が苦しい・ゼーゼーするのは非常にまれですが、口腔・顎の重篤な感染症が気道に影響している緊急事態のサインである可能性があります。
歯性感染が重篤化した場合に生じうる口底蜂窩織炎(ルードウィッヒアンギーナ)などは、気道閉塞を来す可能性があり、迅速な対応が求められます[3]。「少し腫れているけれど様子を見よう」という判断が危険につながることもあります。上記に一つでも当てはまる場合は、夜間でも医療機関を受診することをためらわないでください。
市販の鎮痛薬・塗り薬は効く?正しい使い方と注意点
夜間の歯痛に使える市販薬の種類と選び方
「どの薬を飲んだらいいのか」という疑問は、夜間の歯痛で最も多い疑問のひとつです。市販の鎮痛薬(OTC薬)には主に以下の成分が使われています。
ロキソプロフェン(例:ロキソニンS)
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の一種で、歯科でも処方される成分です。炎症を引き起こす物質(プロスタグランジン)の産生を抑制することで鎮痛・抗炎症効果を発揮します。歯の痛みに対して比較的効果が期待できますが、胃腸への負担が生じることがあるため空腹時の服用は避けましょう。
イブプロフェン(例:イブ、リングルアイビー)
同じくNSAIDsの一種です。ロキソプロフェンと同じ仕組みで作用します。
アセトアミノフェン(例:タイレノール、カロナール)
胃への負担が比較的少なく、空腹時でも服用可能です。妊娠中・授乳中の方や高齢者など、NSAIDsが使いにくい場合に選択されることがあります。歯の強い炎症性の痛みには、ロキソプロフェンやイブプロフェンに比べて効果が弱く感じる場合があります。
服用の際の注意点として、むやみに多く飲まないことが大切で、副作用が増加するリスクがあります。歯科医師・薬剤師の指示を守ることが重要です。また「少し痛くなってきた」段階で早めに服用する方が効果を実感しやすく、痛みがピークに達してから飲んでも効きにくいことがあります。
小児(原則15歳未満)にはNSAIDsは推奨されないため、アセトアミノフェンが選択されます。お子さんの夜間の歯痛には、パッケージの対象年齢と体重当たりの用量を必ず確認してください。
市販の塗り薬(歯痛薬)の役割と限界
ドラッグストアには「歯痛薬」として塗布タイプの薬も販売されています。主成分はフェノール・カンフルやテーカイン(アミノ安息香酸エチル)などの局所麻酔・殺菌成分です。虫歯の穴に一時的に詰めて刺激を遮断するタイプ(正露丸なども使われることがあります)も同様の位置づけです。
これらは患部への直接刺激を和らげる一時的な効果は期待できますが、炎症そのものを抑える作用はありません。炎症が深部(歯髄・根尖)に及んでいる場合には表面からの塗布ではほとんど効果が届かないため、鎮痛薬の方が効果的なことが多いです。
「薬が全然効かない」——そのときが受診の一番のサイン
市販の鎮痛剤は「炎症を抑えて痛みを感じにくくする」効果があるものの、歯の痛みの根本原因である虫歯・歯周病・炎症そのものを治す効果はありません。薬で一時的に痛みが治まったとしても、原因が残る限り痛みは繰り返し訪れます。「薬が効かない」「効いても数時間でまた痛くなる」という状態は、歯科医院での処置が必要なサインです。
特に、虫歯が歯髄にまで達した歯髄炎や根尖性歯周炎の状態では、骨の中で圧力が高まっているため市販薬だけでは痛みのコントロールが難しくなります。「何度飲んでも効かない」「翌日になってもズキズキが続く」という場合は、痛みを我慢せず速やかに歯科を受診することが大切です。
当院では、院長の野田奈菜が「臨床歯科麻酔管理指導医」の資格を取得しており、表面麻酔と細い針を用いて麻酔時の痛みに配慮した処置を行っています。「麻酔の注射自体が怖い」「歯科治療への恐怖心が強い」という方にも、できる限り丁寧に対応しています。
翌朝の受診判断——「様子を見ていい痛み」と「急いで受診すべき痛み」の違い
翌朝に受診すべき症状のチェックリスト
夜間に応急処置を行い一時的に痛みが和らいだとしても、翌朝には必ず歯科を受診することをお勧めします。特に以下の症状がある場合は、翌朝の最初の診療時間に受診することを優先してください。
- ズキズキとした拍動性の痛みが続いている(歯髄炎の可能性)
- 噛むと強く痛む・歯が浮いた感じがある(根尖性歯周炎・歯根膜炎の可能性)
- 歯肉が赤く腫れており、押すと痛みがある(歯周膿瘍の可能性)
- 冷たいものは痛いが、熱いもので痛みが和らぐ(歯髄炎の中期以降のサイン)
- 特定の歯に触れると激痛が走る(根尖膿瘍・歯根破折の可能性)
歯を支える組織が炎症を起こしているケース(歯周病)、歯の神経が死んでいるケースや既に神経を取っているが歯の周りの線維に炎症を起こしているケース(歯根膜炎など)、歯にヒビが入ったり折れたりして炎症を起こしているケース(歯冠破折、歯根破折など)——これらはいずれも早期の歯科治療が必要な状態です。痛み止めの薬が効くことがありますが、放っておくとひどくなるので、はやめに治療を受けてください。
「歯の痛み」が実は全身疾患のサインであることも
前のセクションでも触れましたが、歯の痛みが歯以外の原因から来ている場合もあります。神経障害性歯痛とは、末梢から中枢に至る神経の何処かに障害が生じて感じる痛みです。いわゆる神経痛と呼ばれるもので、瞬間的に刺されたような激痛が起こる発作性神経痛と、じりじりと焼けつくような痛みが24時間絶え間なく続く持続性神経痛に分けられます。
また、带状疱疹(ヘルペスウイルスによる感染)が歯の痛みとして現れることもあります。急性期はウイルスの進行に伴い激しい歯痛が生じ、痛みは1日中持続し、痛みで夜も眠れない状況になることがあります。口の周囲に小さな水疱や皮疹が出ている場合は、皮膚科・内科も含めた受診が必要になることがあります。
歯科で「歯に異常なし」と言われても痛みが続く場合は、非歯原性歯痛の可能性があるため、複数の専門科との連携が必要になることもあります[4]。
当院での翌朝の対応について
東京日本橋クレア歯科・矯正歯科では、夜間の急な歯痛で翌朝のご相談をいただいた場合、できる限り対応できるよう努めています(予約状況による)。当院は日本橋三越前駅・日本橋駅から徒歩圏内の立地で、仕事前の早朝や休日にもご来院いただきやすい体制を整えています(土曜・日曜・祝日の診療あり)。
受診の際は、「いつ頃から痛いか」「どんな痛みか(ズキズキ型か鈍痛か)」「飲んだ薬と時間」「腫れや発熱の有無」をメモしてお持ちいただくと、診査がスムーズです。歯科用CTと口腔内スキャナーで可能な限り詳細に状態を確認し、その日のうちに方針をご説明するよう努めます。
まとめ
- 夜間に歯が痛くなる主な理由は「副交感神経優位による血管拡張」と「臥位による頭部への血流増加」の2つが重なるためです。歯髄炎・根尖性歯周炎・歯周病の急性増悪・親知らず周囲の炎症が主な原因ですが、非歯原性歯痛(心疾患・神経痛・副鼻腔炎など)の可能性もあります[1][2][4]。
- 今夜できる応急処置は「頬の外側を冷やす」「うがいで清潔に保つ」「痛む歯への刺激を避ける」「市販鎮痛薬を用法・用量を守って服用する」「上半身を起こした姿勢で横になる」の5つです。飲酒・入浴(湯船)・温めは逆効果になるため避けてください。
- 市販の鎮痛薬(ロキソプロフェン・イブプロフェン・アセトアミノフェン)は翌朝受診までの応急処置として有効ですが、量を守ること・アルコールとの併用を避けることが重要です。薬が全く効かない状態は、炎症が重篤化しているサインです[3]。
- 顔・顎の腫れ・発熱・口が開かない・飲み込めない・呼吸困難がある場合は、夜間でも救急外来または救急相談窓口(#7119)へ。これらは口底蜂窩織炎など重篤な感染症の可能性があります[3]。
- 応急処置で痛みが和らいだとしても、翌朝には必ず歯科を受診してください。痛みの根本原因は放置すると悪化し、抜歯が必要になるリスクが高まります。早期受診が歯を守る最善策です。
夜間の歯の痛みで不安をお感じの方へ。東京日本橋クレア歯科・矯正歯科では、翌朝の緊急相談にできる限り対応しております(予約状況による)。夜間に痛みが出た場合も、翌朝お電話(03-6661-6604)またはWeb予約でお気軽にご連絡ください。日本橋駅・三越前駅から徒歩圏内で、お仕事前・お仕事後にも立ち寄りやすい立地です。土曜・日曜・祝日も診療しており、平日に時間が取りにくい方にも対応しています。歯の痛みはがまんせず、まずはご相談ください。
はじめて受診される方は、初めての方へ(初診の流れ)もあわせてご覧ください。
参考文献
[1] 厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査結果の概要」mhlw.go.jp
[2] 厚生労働省「『令和4年歯科疾患実態調査』の結果(概要)を公表します」mhlw.go.jp
[3] 日本歯科医師会テーマパーク8020「お口の119」jda.or.jp
[4] 日本歯科医師会テーマパーク8020「非歯原性歯痛」jda.or.jp
[5] 日本歯科医師会テーマパーク8020「ペインクリニック」jda.or.jp
[6] 日本歯科医師会テーマパーク8020「薬剤」jda.or.jp